武田医学賞
2024年度の受賞者
The Takeda Prize for Medical Science 2024
服部 信孝 博士
順天堂大学 主任教授
遺伝子解析を基盤としたパーキンソン病の発症機構解明
服部信孝博士は、パーキンソン病(PD)の研究において一貫して深遠な探求心を持ち続け、その成果は数多くの卓越した研究業績に結実している。特に功績として挙げられるべきは、1998年に若年性パーキンソン病の原因遺伝子parkinの単離、2000年にparkinがユビキチン連結酵素であることの解明、2015年にミトコンドリア機能に関連する原因遺伝子CHCHD2の単離・同定、そして2020年にはリソソーム代謝系の補因子であるProsaposinに変異を持つ家系を見出したことである。3種類もの原因遺伝子を同定したのは服部博士のグループだけであり、その業績は驚異的と言える。機能解析では2000年にparkinがユビキチン連結酵素であることを明らかにしたことは、PD研究の視点を一変させ、病態解明において蛋白分解系へとシフトさせる契機となった。近年では、服部博士はバイオマーカーにも注目し、PD発症の原因とされる異常α-Synucleinシードが血中にも存在することを証明した。この手法により、血液検査によるPDの診断が可能となる新時代の幕開けを予感させている。以上のように、服部博士はパーキンソン病研究を世界的にリードし、国際的な舞台でその卓越した活動を続けており、神経科学領域に多大な貢献をしている。
学歴・職歴
- 1985年3月
- 順天堂大学医学部卒業
- 1985年5月
- 順天堂大学医学部附属順天堂医院脳神経内科
臨床研修医及び専攻生 - 1990年4月
- 順天堂大学大学院医学研究科 博士課程 入学
- 1990年8月
- 名古屋大学医学部生化学第二 国内留学
~1993年8月まで - 1994年3月
- 順天堂大学大学院医学研究科 博士課程 修了
順天堂大学にて医学博士の学位授与 - 1995年4月
- 順天堂大学医学部神経学講座 助手
- 1999年7月
- 順天堂大学医学部神経学講座 臨床講師
- 2000年8月
- 順天堂大学大学院医学研究科老人性疾患病態治療研究センター 専任講師
- 2000年9月
- 順天堂大学医学部神経学講座 講師併任
- 2003年5月
- 順天堂大学医学部神経学講座 助教授
- 2006年7月
- 順天堂大学医学部神経学講座 教授
- 2019年4月
~2024年3月 - 順天堂大学医学部長・大学院医学研究科長 併任
- 2020年10月
- 理化学研究所脳神経科学研究センター神経変性疾患連携研究チーム
チームリーダー 併任 - 2024年4月
- 順天堂大学学長補佐 併任
現在に至る
受賞歴
- 2001年度
- 順天堂大学同窓会学術奨励賞
- 2001年度
- 財団法人長寿科学振興財団理事長奨励賞
- 2001年度
- 第42回日本神経学会総会会長賞(金澤一郎会長)
- 2002年度
- 第39回ベルツ賞1等賞(テーマ:神経変性疾患の分子機構)
- 2003年度
- 日本神経学会賞
- 2004年度
- Thomson Scientific社 Research Front Award(13部門16人)
- 2005年度
- ESIの高被引用回数(1996年-2006年でパーキンソン病部門世界第7位)
- 2012年度
- 文部科学大臣賞 科学技術賞 研究部門
- 2014年度
- MDS-AOS: Yoshikuni Mizuno Lecture Award(Pattaya, Thailand)
- 2017年度
- 日本神経学会楢林賞
- 2022年度
- MDS: C.David Marsden Lecture Award(Madrid, Spain)
- 2023年度
- MDS: The HONORARY Membership Award(Copenhagen, Denmark),
U.S.National Academy of Medicine Healthy Longevity Global Grand Challenge(NAM-HLGC) Catalyst Award - 2024年度
- 時実利彦記念賞
岩田 想 博士
京都大学 教授
医学・薬学に資する膜蛋白質の三次元構造ならびに時間分解を加えた四次元構造解析の研究
医薬の半数以上が膜蛋白質をターゲットとしており、その立体構造は新しい治療法の開発や創薬などに必須の情報となっている。岩田想博士は、一貫して医学・薬学などに重要な膜蛋白質の構造生物研究を行ってきた。初期には、呼吸鎖などの生体エネルギー生産に関係する超分子複合体の構造解析を行い、その分子機構を明らかにすることにより、ミトコンドリア病などの遺伝病の原因解明を行った。その後技術開発にも取り組み、解析した受容体などの医学・薬学などに重要な膜蛋白質は25種類に及び、名実ともこの分野における世界的なリーダーの一人である。さらに岩田博士は、日本のX線自由電子レーザーSACLAにおいて、可視レーザーを用いて結晶中で反応を開始させ、その後の構造変化を追跡するシステムを構築した。創薬ターゲットである受容体は、複数の中間状態を経て活性化し、それらの構造を得られれば新しい創薬が可能になる。岩田博士らは、バクテリオロドプシンそして光受容体ロドプシンにおける光照射後の蛋白質構造変化の直接観測に世界で初めて成功した。このように、医学・薬学に資する新しい機能性蛋白質や化合物を設計することを可能にする新しい学術領域を開拓した。
学歴・職歴
- 1986年3月
- 東京大学農学部卒業
- 1986年4月
- 東京大学大学院農学系研究科入学
- 1991年3月
- 同上 修了
- 1991年4月
- 文部省高エネルギー物理学研究所
日本学術振興会特別研究員-PD - 1992年9月
- ドイツ、マックスプランク生物物理学研究所
ヒューマン・フロンティア・サイエンス・プログラム 博士研究員 - 1996年6月
- スウェーデン、ウプサラ大学生化学科 講師
- 1999年7月
- スウェーデン、ウプサラ大学生化学科 教授
- 2000年3月
- インペリアルカレッジロンドン生命科学科 教授(現在に至る)
- 2004年8月
- ダイアモンド放射光実験施設 ダイアモンドフェロー 兼任
- 2005年1月
- インペリアルカレッジロンドン 構造生物学センターディレクター
- 2005年9月
- 独立行政法人 科学技術振興機構
ERATO岩田ヒト膜受容体構造プロジェクト 研究統括 - 2005年9月
- 独立行政法人 理化学研究所ゲノム科学総合研究センター
客員主管研究員 - 2007年3月
- 京都大学大学院医学研究科分子細胞情報学 教授(現在に至る)
- 2012年6月
- 独立行政法人 理化学研究所放射光科学総合研究センター
利用技術開拓研究部門 SACLA利用技術開拓グループ
グループディレクター 兼任(現在に至る)
受賞歴
- 1998年
- Svedberg Award
(Swedish Society for Biochemistry and Molecular Biology) - 1999年
- Lindbom Prize(Royal Swedish Academy of Sciences)
- 2007年
- 日本学術振興会賞(日本学術振興会)
- 2007年
- 日本学士院学術奨励賞(日本学士院)
- 2010年
- The Gregori Aminoff prize in crystallography 2010
(Royal Swedish Academy of Sciences) - 2012年
- 文部科学大臣表彰科学技術賞(文部科学省)
- 2021年
- 小林賞(小林財団)
- 2023年
- 島津賞(島津科学技術振興財団)